小学生の頃私も随分ひどいアトピーで,両親に連れられては色々な医者にかかった.それでも中々良くならない私のアトピーに煮詰まった両親は,知り合いからの紹介で新興宗教まがいのところにも何度か私を連れて行った.
小学校高学年の多感な時期には,私は中野の或るクリニックに通った.
その病院で最初に指示されたのは,アトピーの原因になる物質を見つけるため,数カ月の間は可能性のある食べ物を口にしないように,という事だった.結果として私は1カ月ばかりの間,おにぎりとソーダ水しか口にできない,という生活を送ることになった.家族で囲む食卓でも私だけはおにぎりを食べた.学校の給食も食べられないので,毎日母親がつくったおにぎりを持っていった.
いまになって振り返ってみると,その病院でやっていた事は一般的な皮膚科の治療から外れているし,栄養バランスの観点からは危険を伴うものですらあっただろう.患者にかかる精神的ストレスも相当のものだ.
そんなこんなを思い出して,手かざしで子供を死なせてしまった両親のお話を読んだ.傍から見ればどの話も無知で腹立たしいだけかもしれないが,自分の身に照らし合わせてなんだか悲しい気持ちになった.
幸い私のアトピーは,年をとるにつれて少しずつ良くなり,その後すくすくと成長し34歳になった私は,今ダイエットのために毎日お昼をおにぎりで済ませる.今でもほんの時々,おにぎりを口に入れた瞬間に,その変わらぬ味が小学生時代それしか食べられなかった頃の事を不意に思い出させて,切ない様な懐かしいような気持にさせる.