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一番好きな本の話から.
本屋で平積みになっている本の中から,その時の気分に合わせて,ジャケ買いよろしくカバーと題名だけで未知の作家のものを選んで買ってみる,という衝動的な事を時々する.
確かいつかのお正月近く,近所の本屋でこの本の表紙を見て,静かな佇まいがその時の気分にしっくりきて,何か別の本と一緒に買った.実際には何カ月も経ってから,気分も無関係に,他に読む本がなくて仕方なしに読み始めたのだったが.
それ以来,何回も読みなおしていて,おそらく一番好きな本の一つ,少なくとも,「自分はこれが好き」と人に薦めたい一番の本だという気がする.
雪沼という架空の土地を舞台に住人の暮らしがやわらかい言葉でつづられ,そのあり様は「静謐」という言葉がよく似合うが,あくまで紳士的に描かれる人々の心の微妙な綾が,読み手の胸に確かに響く.
それぞれの短編の最後の一文は,それまで淡々としているかに思える筆致が急に勢いを増して,しばしば数行をも費やすような長い一文で,力強く読み手に一気に迫る.これは堀江さんが,物語の最後にようやく「日本語」という自分の伝家の宝刀を抜くかの様で,こちらはそれに完全にやられてしまう.
まあ彼は元々はフランス文学者なのだが.
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